6.生鮮農産物特有のサプライチェーンマネジメントの必要性
(1)流通トータルでロスが発生するメカニズム
以上は一事業者の視点でみた取引モデルであるが、輸入野菜とのコストでの対抗上、農産物流通全体のSCMとを考えると、以下の図のようなことが起こり得る。
これは、物流のコストの説明等よく使う図を借用したのだが、販売店やスーパーがある商品を1店舗あたり10個売りたいという時に、仲卸が10店舗と取引していたとすると、100個商品が必要となる。1割の余裕を考えると110個仕入れなければならない。卸売業者が仲卸と10社取引しているならば、この卸売業者は1,100個仕入れなければならない。やはり1割のバッファーを考えると1,210の仕入れとなる。同様に産地集荷業者が10社と取引しているならば、合計13,310仕入れなければならず、最終的に農家は14万6,410個商品を作らなければならない。
ところが、実際に売れたのは8個で、2個はロスとなった。このロス率を見込み、それで採算が合うように計画されているとすれば、小売段階で8個しか売れないとの前提で単価が形成される一方で、そのスーパーの売上を保証するために、各段階では1割余分に在庫がなされ、流通全体の過剰在庫は莫大なものとなり、生産現場では、6万6,410個の商品が無駄となる。白菜をトラクターで潰したり、生産調整をしてミカンを山に捨てたりする現象にはこのような背景がある。

図8 供給者連携(情報共有)で生産販売一貫管理
生鮮野菜は在庫することによって、鮮度が落ちる、腐って量が減るという特徴を持っているので、ロス率を見ざるを得ない。ロス率を見込んだ仕入れは、最終的に生産者からみた単価を下げてしまう。一個あたりの単価を据え置いて、実際の取引では全て1割余分に仕入れることになるからである。結局このロス分は生産者が全部負担している。
結局、生産や流通のリスクは生産者が全部背負っている。言いかえれば、生産者から見れば、農協を含めてそこから先は全て手数料商売である。途中の買取ではない。すると、理屈はどんなことであれ、需要供給のリスクは生産者が全部持っている。これが日本の農産物流通の考え方である。このようなぶつ切りの状態でやっていたのでは、日本の農業が成り立つわけがない。輸入に頼らざるを得なくなる。そうではなく、消費者に喜んでもらうために、国内産をきちんと流通させようと考えるのであれば、需要側の情報を共有できるようにしなければならない。
(2)ロスの低減に向けた生産予測と需要管理の重要性
限りなく、ロス率を少なくする、先ほどの図で言えば『80,000個だけ作ればよい』ということができないだろうか。最終的には、情報共有に基づき、SCMの考え方によるロジスティクスに取り組むことで、この発想に近づけていかないと、全体の無駄が多すぎると思われる。
このため、生鮮農産物特有のロジスティクスの考え方が必要になる。ここ数年、その構築に向け一生懸命に試行錯誤してきた。その中で重要な教訓がある。『ロジスティクス』はそもそも、企業的工業生産、さらに紐解けばもともとは戦争から生まれた理論である。その要諦は、需要予測を行い、それをタイムリーかつ的確に生産ラインに反映させることで、効率的な経営を目指すものである。しかし、残念ながら、農産物はリードタイムが非常に長いので、精度が高い予測をしても、6ヶ月先のことを完璧には当てられない。仮に6ヶ月先の需要予測が当たったとしても、今度は、生産がその通りに対応できるとはかぎらない。工場であれば比較的対応できるかもしれないが、農業は環境条件に左右される産業なのでその通りにはできない。したがって、ロジスティクス論理に基づく『需要予測』はもちろん大事であるが、生鮮農産物の場合は『生産予測』がより重要となる。作付をスタートした後の生産予測が早めに分れば、需要側の計画も修正が可能である。
ただし、生産予測はなかなか難しい現状がある。卸売業者は密に連絡を取っている産地との経験則でしかわからない。農協の部会ですら、組合員がどれだけ作付けしたかを正確には把握していないのだから、生産予測ができるわけがない。
生産予測をしっかり把握すれば、たとえ需要予測が狂っても「これだけはちゃんと売ってもらう」という努力ができる。すなわち、需要管理をいかにしてもらうかという話にできる。例えて言うと、スーパーで刺身盛りを夕方7時になったら3割引、閉店間際の7時半になったら5割引にすると、肉料理にしようと考えていたお客様が「この値段ならお刺身でも・・」と思って購入する。1店舗でこのようなお客様が10人いたとすると、1000店舗あると10,000人の需要を作り出すことになる。
野菜はリードタイムが長いので、週単位、月単位、例えば、「今月はナスが特別・・」というように、プロモーションを予め進めておくことが必要となろう。このために、従来はスーパー内在庫での需要管理であったのを、今後は流通全体の需要管理を行っていくことが重要となる。
需要管理を行う前提としては、SCM、すなわち需要予測と情報共有が十分になされている必要がある。これができれば、商流と物流は完全に分離されて、流通全体のコストの低減に貢献することができる。
(3)生産と販売の統合、商流と物流の分離
このような将来像を描くにあたり、生産側には何が求められるか。例えば農家は、運送関係、販売関係の人たちときっちり手を組んで、しっかりとした年間計画を伝える。販売側の「うちではこれだけ売れる」という情報に対して、大きな枠での出荷予約をする。この枠ができたら、今度は需要予測に従って、適切に計画を実行するための経営支援、栽培支援が必要となる。
しかし、実際には経営支援、栽培支援が難しい。このシステムは、過去から試行錯誤しているが、先にも述べたように、国は基礎研究、県は応用研究、しかも自分の県の情報は隣の県には絶対に出さないという偏狭な現実があるので、なかなかうまくいかない。ましてや、このシステムができたところで、作物を買ってくれる保証はない。いかに売るかという技術ではない。
しかし、生産計画に基づき売ったものに対して着実に生産しなければならないという意味での栽培支援情報として捉え直すことにより、非常に重要な機能を果たすことになる。すなわち、売った量=出荷計画に対して、栽培記録をつけ、生育予測を伝え、需要管理に役立てていく。「来週はとても味の良いイチゴが大量に入ってくるので、他のスーパーに先駆けて売り出しをかけよう」ということが可能になる。このような生産と販売の統合の仕組みが構築できれば、実は商流と物流の分離もはじめて効果的なものとなる。
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