・ 農業経営改革に向けたITの活用
 ・ 農業経営の構造改革とIT活用の課題
 

農業経営改革に向けたITの活用

農業情報学会副会長
株式会社AGIC
代表取締役 田 上 隆 一

はじめに

 農業生産者のホームページなどインターネット利用はもちろん、デジタル多機能機器としての携帯電話の爆発的な普及により、農業の情報活用にも新たなコンセプトが持ち込まれた。高速パケット通信や無線LAN、容易に操作可能な画像処理などは、生物や自然環境が対象だから難しいと言われた農業情報の概念を変え、農業経営における情報活用の可能性を大きくした。畑でインターネット情報の入出力ができるように「誰でも、いつでも、どこでも、必要な情報が入手、発信できる」ユビキタス環境ができつつあることによって、農業の生産現場においても、農業特有の問題が解決できる糸口が見えてきたのである。
 しかし、農家がパソコン簿記や農作業日誌で経営を管理したり、ホームページやEマーケットプレイスで農産物を販売しても、それだけでは農業経営の改革にはならない。これからの農業経営者は、生産活動の各局面でITを活用するとともに、情報化社会における経営計画、農産物流通・販売、および食品安全・環境問題などにいたる、経営・経済・社会の諸問題を横断的に捉え、その上で自らの農業経営をどのように再構築するかを考えることが重要である。

―生産管理と流通販売の一環管理で経営改革―

食品安全と情報技術

 農業経営の新たな方向を考えるに当たっては、特に消費者の信頼を取り戻すにはどうすればよいか、情報の視点で考えることが重要である。BSE発生を契機とした食の安全確保の問題は農業ビジネスモデルを変えようとしている。食品事件が相次いで起り消費者の不信はかつてなく高まり、その結果としてこれまでの食品安全対策を根底から見直さなければならなくなった。行政を中心に農業や漁業の生産者団体及び食品の加工や流通業界などでは、食品のトレーサビリティシステムを社会の基盤に据えようと動いている。トレーサビリティは、生産から流通・加工、販売そして消費まで、農産物流通を一貫して捉えることが必要であるといわれており、流通段階での商品ロット管理に無線通信によるICタグ「RFID」などを使った情報通信システムの導入などが進められている。また、生産段階では農業団体などの指導でも、生産計画から資材の準備、作付、栽培、収穫、出荷に至る生産過程すべての文書による記録が推進されるようになった。
 さらに、農場における安全性確保の具体的な対策として、農業適正規範(GAP)の遵守が求められ、ヨーロッパでは、民間主導のユーレップギャップ(EUREP_GAP)が普及し、今やヨーロッパへの輸出農産物についてはGAP認証が生産農場の必須要件となりつつある。圃場、資材、および作業の安全確認や環境への配慮、衛生を中心とする作業者の安全確保などを内容とするGAPは、生産者にIPM(統合的防除管理)を前提としたICM(総合作物管理)を要求しており、それらに関連する事項の日常的な記録を義務付けている。また、GAPは第三者監査による認証を要するために、大量の厳密で正確な情報処理も必要となり、生産者に負担を掛け過ぎないようにするためにはIT活用が必須である。
 このような課題に対して、従来からの縦割りの行政や学術体系による手法では問題解決は困難である。単一の専門領域によるブレイクスルーではなく、横断的プロジェクトによる総合的アプローチが必要である。もともと農業の目標は「食料を安定的に生産すること」と「安全で安心な食品を供給すること」にあると言える。したがって、農業情報の研究および普及の目指すところも、単に農業・農村分野へのIT推進やそれらに関連するシステム化だけではなく、最終的には情報化モデルに基づく農業生産並びに生産物流通に関わる基本的なコンセプトを構築することにあるといえる。
 そのような観点から、農業生産者のIT活用の課題を「誰が」「何を」「どうする」のかと考えてみると、「農業生産者自身が」「食料や経営・環境の諸問題を」「ITを活用して解決する」ことだということができる。単に農業にITを活用することではなく、農業や食料が抱える問題や農業経営が問われている課題を明らかにし、その解決を図る過程でITを如何に活用するかということである。

圃場モニタリング情報と経営改革

 筆者らは、農産物の生育状況や生産現場の様子などの多様な情報を、動画も含む様々な計測データとしてWeb公開するシステム「Farmweb」を開発し、農家や農業団体、農業大学校で利用された。このようなプロトタイプとしてのシステムが、現在では、中央農業総合研究所などの研究開発により世界各地の農場のリアルタイム情報を送り続けるネットワークシステム「Field Server」として実用化されている。また、Field Serverによる分散圃場モニタリングシステムのデータを、統一的に取り扱う分散コンピューティング(グリッドコンピューティング)手法と、「MetBroker」というインテリジェント・ハブが開発され、今では世界中の気象観測データを誰でも簡単に利用できるサービスも行われている。
 刻々と変化する圃場モニタリング情報は、農作物の生育や収量・収穫予測、病害虫発生の予測などを可能にし、関係者や生産者およびそのグループなどで共有すれば、栽培技術の向上や産地間の出荷調整、市場や販売先との需給調整なども可能になる。また、農業技術の専門化に情報開示して栽培の技術コンサルティングを受けることも可能となり、さらに、消費者に産地の生きた情報を提供することで農産物のオーナー制度や契約栽培を実施するなど、双方の情報交流を活かした都市・農村のネットワーク交流の効果も期待できる。

圃場データベースと農業生産管理

 新たな農業経営で必須とされるGAPで、農業経営者に求められることは農場のリスク管理である。ここで求められる要件は、単に生産過程を記録することではなく、自らが農場の危害(リスク)分析をし、その危害回避対策を制度化し、それを誠実に実施すること、その結果を第3者への対抗要件として文書(ドキュメント)記録することである。これらの情報処理では、農業生産者が行う経営の体制整備や経営計画および日常活動の記録などが体系的に記述されなければならない。
 GAPによる農場の記録は、圃場や園地の作付・栽培データベースが中心になり、農業経営管理の最も基本的かつ重要な情報である。大手量販店や生協との契約栽培を実施している農業団体では、販売計画と作付け計画の調整を行い全体の栽培計画を立て、出荷日から計算された作物の播種日に作業ができる農家を選んで圃場ごとの作付けデータベースを作る。販売契約に沿った品質と量を確保するためには圃場の管理を厳密に行う必要があり、微量要素までの詳細な土壌検査データにあわせた個別の土壊改良、品種ごとの栽培管理手法、気象条件に合わせた生育管理、出荷時期の微妙な調整など、作付けから出荷までのプロセスを一貫して管理するのである。

農産物情報とサプライチェーン管理

 マーケット対応のためには圃場の生データが最も強力な武器になる。圃場ごとの栽培管理実績データによって産地の農家全体の農作業プロセスが把握でき、不確定だった収穫・出荷の予測精度が高くなる。農業ビジネス特有の課題の一つに、需要と供給のミスマッチがあるが、圃場データベースを元に量販店に生育情報をいち早く伝えることで、取引先の需要管理に役立てることも可能になる。さらに、このデータベースは、圃場ごと、生産者ごと、作物ごとの栽培・生育の詳細を極めることによって、生産過程での問題解決に役立てることができる。グループ全体として一定の品質を安定的に生産するためには高いレベルでの標準化が必要であるが、個別で具体的な圃場データベースが何よりの指針になるのである。
 自社のオリジナル品種(農産物)を生産・販売する会社では、販売(受注)情報と生産(出荷)情報とを直結して量販店に直接販売している。筆者らが、このビジネスのサプライチェーン分析を行った結果、ロジスティクス計画が在庫管理を中心に行われており、リードタイムのバラツキと、赤字となる流通経路があることが分った。これらの解決を図る新たな輸配送計画システムによって、経路を短縮すること、不採算経路を改善することなどが必要であると分かり、そのため生産担当と販売担当とが相互の情報とロジスティクス情報とを共有し、一貫した物流管理および出荷予測の精度を上げることが需給調整のポイントとなり成果を上げた。
 このように情報システム化で農産物の生産過程を詳細に把握・管理し、さらに流通、販売側との情報共有によるサプライチェーンの一貫管理ができてはじめて農業ビジネスの経営改革が可能になる。

 

-ITによる業務改革と新たなビジネスモデル-

食品安全情報の記録と伝達システム

 消費行動の変化や消費者意識の変化が、食品流通業者にコンプライアンスを厳しく求めることになり、それらはそのまま生産者への要求にもなり、今や農業のあり方をも変えようとしている。消費の変化が生産や流通の革新を促すことは、農業以外の産業では早くから経験してきたところであり、その課題解決のためにITが大きな役割を果たしてきたことも周知の事実である。農業もこの例外ではなく、生産や流通現場でのIT活用が、農産物の安全性確保や流通の合理化のための基盤になることが期待されている。
 トレーサビリティシステムの要件として、フードチェーン全体のカバー、商品と情報の統一、食品流通の経路履歴と取扱段階での安全確認履歴、などが必要であるといわれている。商品の流通ロット管理で、識別子としてバーコードや無線通信によるICタグ「RFID」などを使った情報通信システムの導入などが進められている。しかし、生産段階でラベル貼付が行われても、流通業界の現状の情報システムで取り扱えるのは、取引情報だけであり商品個別の経路履歴は把握されていない。多くの取引先、多くの商品を取り扱う流通業者にとって、識別子の媒体そのものとそこに書き込まれた商品情報のコードが統一されていなければ、自社内でのトレーサビリティ情報把握は困難である。
 食品の安全性確保が進んでいるといわれるイギリスでは、卸売業者が、調達先のコードと販売先のコードとを、自社内作業の商品分割及び結合コードで紐付けすることで、ユニークなトレーサビリティコードを発行し、販売先への保証としている。生産者、流通業者、販売業者がそれぞれ、自社の安全確認履歴をデータベース化し、調達または販売ごとの商品情報と一致させていれば、それぞれの事業主体の責任において、結果としてフードチェーン全体がカバーされるということである。
 イギリスでは、圧倒的多数の農産物が市場流通ではなく売買契約に基づくサプライチェーンで行われていること、売買の成立による所有権の移転とともに、安全性確保の責任も移転することなど、日本とは商慣習や契約概念などが異なっていることが、取り組みの相違の理由であろう。しかし、わが国の卸売市場法改正はサプライチェーンを構成するビジネスモデルを促進することになり、チェーンを構成する各経営主体は、それぞれ自社内の安全確認の記録と情報開示がもとめられることになる。すでに、日本でも、一定の生産基準を求める生協やチェーンストアなどのプライベートブランド商品には、生産計画から資材の準備、作付、栽培、収穫、出荷に至る生産過程の詳細な記録が求められている。また、農薬取締法改正により使用農薬の記録が義務付けられることとなり、農業団体でも生産過程を文書で記録することを記帳運動として推進しており、様々な入力システムが市販されている。

適正農業規範GAPと生産管理統合化システムICMS

 農産物に貼付したラベルの識別コードをキーにしてインターネットにアクセスし、生産者やその生産情報を消費者に開示するIP(Identity Preservation:身元保証)生産システム、いわゆる「ITで顔の見える販売」が見られるようになった。生産履歴書が、消費者にまで届くことは農産物の販売促進に役立つことになり、今後この販売手法は増えることが予想される。
 しかし、様々な消費者アンケート調査などからも明らかなように、生産履歴公開だけでは、失われた消費者の信頼を取り戻すことはできない。識別された農産物商品そのものの安全性をどうやって保証するのかが問われている。そのため、近年では「生産現場でどれだけ注意深く安全性確保に努めたか」が問われることとなり、農場における安全性確保の具体的な対策として、生産者による適正農業規範(GAP)の実施が求められることになった。GAPは取り立てて難しいものではない。消費者に喜んでもらおうと真心を込めて農産物を作っている人なら、当たり前に実施していることであり、誰もが納得できる基準なのである。
 GAPは、単に生産工程を記録することではなく、自分の農場および生産工程で考えられるリスクを列挙し、分析することから始まる。そのリスク回避のポイントを明らかにし、農場の活動規則として位置づけ、日常の営農活動で実施すること、その結果を第三者への説明責任として記録することがGAPの実行である。継続的な営農活動の記録が重要であり、農業生産の準備から、作付、栽培、収穫、出荷、販売にいたる全ての行程の危害管理とその対策を実施するためには、営農とGAP管理を統合的に管理する事務体系とその情報システム化が必要である。GAP管理と一体となる営農支援システム(ICMS)には、以下の3つの要件が求められる。

  1. 病害虫防除サポート:GAPを実践し、農薬使用規則や残留農薬基準等の関係法令に適正に従うためには、登録農薬の詳細情報やそれらの適正な使用法についての知識が必要になる。膨大でかつ専門的な情報を必要なときに適切に利用できる、また、使用農薬を計画、実行、検査の各段階でその適否を判定する機能である。
  2. 農産物生産管理サポート:作物の作付から肥培管理、病害虫発生予察、防除記録、収穫記録など実践的な作物管理を基本に、GAPの必須要件である管理点のデータ記録、作業記録そしてトレーサビリティ等、GAPで求められるデータ記録が日常の業務管理と一体的に利用できる機能。
  3. GAP管理サポート:適正に行われた農場や作物管理および出荷活動などの記録がスムーズにコンピュータに記録されるとともに、販売先ごとに異なるデータ送付要求に応える認証事務を容易におこない、適正農業生産者の事務を軽減する機能。

IT化による新たなビジネスモデルと業務改革

 農産物の安全性確保と流通改革による新たな農業ビジネスモデルでは、農業生産現場のIT化によるBPR(Business Process Reengineering)が必要である。消費者が求める美味しさ、新鮮さ、安全性、トレーサビリティ、情報開示機能などを満たす品質基準を持ち、それらを実現する施肥や病害虫防除などの高度な栽培技術(及びその栽培基準)を駆使するとともに、食品安全管理と環境保全重視の持続型農業システムを確立し、EDI(Electronic Data Interchange)化で、流通・販売業者との情報共有を可能にすることなどである。
 安全性確保と流通改革を実現するIT活用で、水稲ビジネスを例にとれば、圃場ごとにデータベース化された作付けや施肥および防除基準に基づき、圃場に設置された各種センサー(Field Serversなど)による生育や生物モニタリング結果からタイムリーな作物保護を実施する。水位センサーによる水管理の自動化は低温時の深水管理で冷害を免れた実績がある。また、Field Serversとの無線通信で、ネット上のモデルに準じた適切な生育管理が可能になる。圃場全体がホットスポットであるから、作物環境の計測データと、作物をWebカメラで取り込んだ画像データとを比較して分析することなども可能であり、更に、インターネット上の農薬データベースで、使用農薬の適正診断を行うとともに、その結果を栽培履歴として自動記録することも可能である。
航空機や衛星によるリモートセンシングを活用すれば、幼穂形成期には植物活性度診断で圃場ごとの生育ムラデータを画像化し、追肥や防除処理などを効率化できる。また、成熟期の画像データからは米の食味診断の要因であるタンパク含有量を推定して、対象地域内の圃場ごとのマップを作成し、あらかじめ同一品質の米圃場を把握することで、販売先を意識した効率的な収穫、出荷、貯蔵の管理に役立てることが可能である。
 このように、今まで不可能と思われた課題解決や、手間の掛かるために不採算と思われた管理業務等を、総合的なIT化で高度化・効率化することで、食品安全や消費者の安心を担保する品質管理と、農業食品のトータルコストを削減する流通合理化を、同時に解決することも可能になるのである。

 

-農産物の安全性確保と流通改革の情報システム-

GAPは農産物流通のパスポート

 農林水産省は、平成16年度から日本版GAP(適正農業規範)の導入・確立(生鮮農産物安全性確保対策)事業を実施している。販売される野菜と果実に関する、病原微生物、化学物質、異物混入等の様々な危険を最小限に抑えようとするリスク低減対策としてGAPを普及させようということである。
 有機農産物や特別裁培農産物が、農場への化学物質の投与をゼロにするか50%以下に抑えるかという定量の目標であるのに対して、GAPは、農産物の安全を確保し、持続可能な農業システムを確立するための、農業生産の手法に関する基準である。この点を農林水産省では、次のように表現している。「当産地では、植え付け前、栽培中、収穫、選果、出荷のそれぞれの段階で、可能性のある危害を予測し、これらの危害を最少にするための対策や管理を行っており、記録を残しています、と言えるよう、体制を整え、生産管理を行い、それらの記録や書類を整備すること。」
 日本ではGAPへの取り組みが始まったばかりであるが、ヨーロッパのスーパーマーケットに出荷する農産物の生産者は、EUREPGAP(ユーレップギャップ)の認証が必要になっている。欧州小売業組合(Euro-Retailor Produce Working Group)が、新鮮で安全な青果物であることを消費者に保証するための要求事項として1997年に提案した適正農業規範(EUREPGAP)が2000年に確立し、今年(2005年)からは、認証のない生産者からは購入しないことを明確にしている。

GAP管理と情報処理

 2004年9月、日本では初めて、青森県の果樹農家「農業生産法人片山りんご有限会社」と千葉県の野菜農家「農事組合法人和郷園」が、EUREPGAPの認証審査を受け合格した。片山農場は、2003年3月に一度受審して不合格となっている。その決定的理由は、審査員に薬剤散布に関する質問に「合羽、長靴、マスクや帽子は着用するが、メガネをかけているのでゴーグルは着用しない」と応えたためであった。他に「炭酸カルシウム粉剤を農薬置き場でなく肥料置き場に保管していた、スピードスプレヤーの噴口から出る水圧の記録が無かった、薬剤散布に当たって誰が何時どのような目的で農薬と散布時期を決定したのか明らかでない」などが指摘されている。これらの経験をもとに、2004年の審査では、品質管理基準など必要な書類の体系的な整備を行って事務システムを確立するとともに、内部審査を実施し、不適合箇所の是正処置を講じたのである。
 一方、和郷園農場では、片山農園の経験に学んでEUREPGAPの理解に努めたが、審査結果は、「残留農薬分析が計画的に実施されていない、収穫から搬出までの衛生リスク分析がされていない」などで不適合の指摘を受けた。他に「育苗過程が記録されていない、農薬散布に使用した機械の記録がない、余った農薬およびタンクの洗浄液の処理記録がない」など記録不備の指摘を受けた。いずれも早急に対応できる問題だったので、1週間以内に改善し、是正報告を提出、書類の再審査で合格となった。
 不適合の内容を再確認すると、それらの多くは日本のまじめな農家ならほとんど実施している事柄で、注意すれば比較的簡単に「適合」の評価を受けることができるものばかりである。問題は情報処理である。農業生産の工程を計画し、実施し、改善に努めるという経営管理のサイクルを、記録に基づいて実施していないための不適合が多かった。
 GAPは、「安全な農産物を消費者に届ける事」が最大の目的であるから、実施する内容が適合していることは当然であるが、同時に、取引相手や消費者に届ける農産物が、「安全確保に注意して栽培・収穫された事」を情報として伝えなければならないのである。農産物という「モノを市場で販売する」のではなく、安心という「情報付きの商品を供給する」ことが求められているのである。ヨーロッパのスーパーマーケットがGAPを導入したそもそもの動機は、「自社の看板に傷をつけない」ために、生産現場の工程管理を明らかにさせ、情報で確認しようとしたものであるが、GAP実施の情報伝達は、サプライヤーの利益だけではなく、結果的には消費者が安全な農産物を手にすることができるというメリットにつながる。
 さらに、生産者にとっては、GAPの情報処理によって、取引先との信頼関係を強固なものにできるメリット、農業生産現場の業務改善につなげることができるメリットが考えられる。この意味で、GAP管理のための情報処理は、流通業者及び消費者のためばかりではなく、むしろ、農業生産者の経営向上のために必要な課題なのである。

GAPによる安全確保と流通革新の情報処理

 GAP導入の具体的な手順は次のようになる。①農場及び生産過程の危険性を洗い出す。②危険性の回避策を考える。③危険性の管理と回避の対策を規則化して日常の管理手順にする。④管理手順を実施して内容を記録する。⑤内部検査に基づく不適合の是正で、経営の業務改善を行う。このことからGAPは、健全な農業を目指す生産者のためのPDCA(Plan:計画、Do:実施、Check:検討、Action:改善)サイクルの管理基準であるといえる。
 その内容は、消費者に喜んでもらおうと真心を込めて農産物を作っている人なら当然のように実施していることであり、誰もが納得できる内容である。例えば、圃場や用水が化学物質で汚染されていないか確認、記録しておく。肥料や農薬の使用方法に間違いがないか、法律や各種ガイドラインなどに照らして判断、実施する。それらの使用資材を確実に記録する。作業者の健康や待遇、及び自然環境に異常な負担をかけないよう目標を立てて、管理、実施し、結果を記録する。農産物商品には生産者名・圃場名・収穫日などを記載し、商品と取引先への情報を一致させて管理する。そして、記録された各種の情報は、経営内部で総合的にチェックして改善に役立てる。これら一連の実施がGAPの主な内容である。
 GAPの概念は、狭義には、第三者の審査を受けるための審査項目であるが、実際の運用に当たっては、広義に捉えて実施すべきでり、GAPの管理及び情報処理の対象や範囲は、少なくても次の3つに区分される。
 ①品質基準:消費者の要求に応えるためには、農産物が、美味しいこと、新鮮なこと、安全なこと、消費の目的にあっていること、トレーサビリティが担保されていることなどが満たされなければならない。
 ②栽培基準:品質基準を満たす農産物生産のために、知識や技術を動員して栽培基準を設定し、最も効果的な資材や手法を選択するとともに、可能な限り化学物質の投与を減らす統合的病害虫管理(IPM:Integrated Pesticide Management)を取り入れた、総合的作物管理を行うことが必要である。
 ③農業基準:優良な農業基準に基づいて、自ら農場及び生産工程のリスク分析を行い、農産物の安全確保に努めるとともに、その農業が持続できるよう環境保全に努めなけらばならない。
 以上のことから、消費者の安全性要求に応え、また、応え続けるためには、持続的な農業システムを確立しなければならないと言える。したがってGAPでの農産物とその取扱いは、手法が持続可能であり、環境や生態系を維持し、且つ生産者の経営が成り立つものでなければならない。また、流通及び販売関係者との共同による需給調整、物流管理を行う新たなビジネスモデルが必要であり、それらをコントロールする統合的情報システムを構築しなければならない。

 

(週刊農林2005年1月)


 

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